転職するか。この副業を始めるか。学び直しに時間を使うか。
迷ったとき、誰かに相談するのは自然なことです。けれど、三人に聞けば三つの答えが返ってきて、かえって動けなくなることがある。背中を押す人もいれば、慎重にと言う人もいる。どちらにももっともな理由があるからです。
相談したのに迷いが深くなるのは、相談が足りないからではないのかもしれません。相手ごとの価値観を重ねる前に、自分が何を見落としているかを確かめたい。相談では、その見落としを借りることができます。
相談は、決断の代行ではない
賭けの思考では、結果がまだ確定していないときにも、条件を整理して自分で選ぶ。だから相談相手は、正解を持つ先生というより、判断の死角を照らしてくれる相手です。
私自身、発信を始めたいと考えながら、正しい媒体、正しい導線、正しい編集体制、正しいフォルダ構成を探し続けて、最初の一歩が遅れたことがあります。仕組みを整えること自体は必要でした。ただ、公開されていない記事は読者に届きません。あのとき必要だったのは、どこで止まっているかを見る視点でした。
相談相手も、その視点を借りる相手になり得ます。「あなたならどうしますか」と尋ねると、相手は自分の事情、自分の怖さ、自分が大切にしているものから答えます。その答えは参考になります。でも、そのまま借りれば、選んだあとに引き受けるのは自分なのに、判断の軸だけが相手のものになる。
相談の目的を少し変えてみましょう。まず仮の答えを自分で置き、そこにある見落としを探す。その順番なら、相談は迷いを増やす材料ではなく、決め方を整える材料になります。
先に、仮の答えを一行で置く
相談の前に、まだ確信がなくてもいいので、自分の仮の答えを一行で書きます。
たとえば、「今の仕事を続けながら、週に一度だけ学び直しを始める」「副業は、生活を崩さない範囲で試す」のように。ここで大事なのは、立派な結論を出すことではありません。相談の出発点となる仮の答えを、自分の中に持っておくことです。
仮の答えがあれば、相手の意見を丸ごと採用するか拒むか、という二択から離れられます。どの部分が補強され、どの部分が揺らいだのかを見られるようになるからです。
借りるべきは、三つの「見落とし」
相談相手には、次の三つを聞いてみるといいと思います。
一つ、私が見ていない前提は何だろうか。
時間、お金、体力、家族との約束。選択肢そのものより、こうした前提の見落としが判断をずらすことがあります。相手には、自分の計画の弱点を探してもらう。
二つ、どんな条件がそろえば、あなたの見方は変わるだろうか。
賛成か反対かだけでは、助言は使いにくいものです。見方が変わる条件を聞けば、意見を「判断材料」に変えられます。自分が次に確認すべきことも見えてきます。
三つ、私が引き受けることになる損失は何だろうか。
すべての選択に、得るものと失うものがあります。相談相手には、成功した場合の話だけでなく、うまくいかなかったときに自分が受け止めるものを言葉にしてもらう。そのうえで引き受けられるなら、その選択は自分のものになります。
最後に決めるのは、自分の条件
相談のあと、メモを三つに分けます。新しく分かった事実。相手の評価。そして、自分が大切にしたい条件です。
事実は取り入れる。相手の評価は、理由が自分に当てはまるかを確かめる。最後の条件だけは、誰かに預けない。この順番を守ると、助言は多いほど迷いを深くするものではなくなります。
迷いは、相談相手を増やせば消えるとは限りません。でも、自分の仮の答えを置き、見落としだけを借りるなら、相談は次の一手を小さく、具体的にしてくれます。
決めるためには、自分の条件で選べるだけの見通しを、少しずつ増やしていくことです。