判断の技術

「このままでいいのか」が消えないのは、物差しが社内にあるからではないだろうか

「このままでいいのか」が消えないのは、キャリアを測る物差しが社内にしかないためだと整理する。市場価値を「社外の誰かが払ってもよいと考える期待値」と定義し、社内評価と併せて二つの物差しを当てる見方を、7か国25年の経営現場の経験から示す。

GIANt
公開
2026.08.06
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判断の技術
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同じ会社で長く働いていると、ふとした瞬間に「このままでいいのか」という声が頭をよぎる。でも、いざ転職サイトを開いても、何を見ればいいのか分からずにタブを閉じる——そんな夜を、あなたも一度は過ごしたことがあるかもしれない。

20代から30代の若手社会人では、「自分の人生やキャリアでどうしていきたいかわからない」と感じる人が約半数にのぼるという。これは準備不足の話ではない。自分のキャリアを測る物差しが手元にないと、次の一手は決めにくい。しかもその物差しは、社内にしか存在していないことが多い。今日はそこを動かす話をしたい。

「市場価値」とは、社外の期待値のこと

市場価値、という言葉はよく使われるわりに、輪郭がぼやけている。年収のことだと思う人もいれば、資格の数だと思う人もいる。

僕の定義はシンプルだ。市場価値とは、あなたの会社の外にいる誰かが、あなたに払ってもいいと考える期待値のこと。社内の評価が「今の役割をどれだけうまく回しているか」を測るのに対して、市場の評価は「その能力を別の場所に移しても値がつくか」を測る。この二つは、似ているようで測っている対象が違う。

だから、社内評価が高いのに市場では動けない、という人が出てくる。悪いことではない。ただ、社内の物差しだけを信じていると、自分の値段を見誤る。迷いが消えないのは、情報が足りないからではなく、片方の物差ししか当てていないからだ、といえる。

一つの物差しだけでは、仕事の価値は測れない

僕は25年、7か国の経営現場で、現地法人の立ち上げと組織拡大に携わってきた。その経験を通じて、仕事の価値は一つの物差しだけでは測れない、と考えるようになった。

社内での評価は大切だ。いま担っている役割をどれだけうまく回しているかを示してくれる。ただし、それだけで仕事の価値のすべてが決まるわけではない。会社の外から見たときに、どんな期待を担えるかという物差しもある。

これは本人の優劣の話ではない。同じ能力でも、その能力を使う場所を変えると値段が変わる、というだけのことだ。一つの物差しに寄りかからず、別の角度からも測ってみる。その視点が、自分に貼り続けてきた古い値札を外す入口になる。

社外の物差しに架け替える、三つの問い

評価軸を社内から市場へ移すために、僕が使っている問いを三つ渡したい。転職を今すぐする・しないに関係なく効く。

一つ、この専門性は、会社の名前を外しても値がつくか。 名刺の会社名で回っていた仕事と、あなた個人に付いている仕事を分ける。市場が評価するのはポータブルな力——論理的思考、マネジメント経験、そして替えの効かない専門性だ。会社を外した瞬間に消える価値は、社内資産であって市場資産ではない。

二つ、年功や社内の慣れで守られている価値は、どれか。 守られている価値そのものは悪くない。ただ、それを市場価値と思い込むと、外に出たときに足をすくわれる。守られている分を正直に差し引いて、残る芯を見る。

三つ、市場で替えの効かない一手は、どれか。 直近のエン・ジャパンの調査は、『ミドルの転職』『エン エージェント』を利用して転職した30〜49歳を対象に、転職後に年収が上がった人の割合を職種別に集計したものだ。その範囲では、ポータブルスキルや替えの効かない専門性が評価される傾向が示されている。あなたの経験の中で、他の人では埋めにくい一点はどこか。そこが、次の賭けで張るべきポジションだ。

この三つは、順に答えを出さなくていい。この三つを頭に入れて、日々の仕事を眺めるだけで、社内の物差しに寄りかかっていた部分が見えてくる。

明日からの一歩——値札を外して、一度測り直す

大きく動く必要はない。明日、通勤の15分でいい。いまの自分の仕事を一つ取り出して、「会社名を外しても、これは市場で値がつくか」と問うてみる。値がつくなら、それは持ち運べる資産だ。つかないなら、社内で磨くべきものと、外で通じるものを分ける材料になる。

期待値で判断するとは、手元の材料の置き場所を変えて、確からしさを測り直すことだ。物差しを一本増やすだけで、「このままでいいのか」の声は、自分を責める声から設計の入口へと変わっていく。迷いは弱さではない。判断の入口だ。


参考にした外部記事(きっかけ)

  • エン・ジャパン「30代・40代の『転職して年収が上がった職種ランキング』」— 対象:『ミドルの転職』『エン エージェント』を利用して転職した30〜49歳、集計期間:2023年1月〜2025年6月。転職後に年収が上がった人の割合を職種別に集計 https://corp.en-japan.com/newsrelease/2025/43795.html
  • ログミーBusiness「30代で感じるキャリアの不安はどう解消する? 『キャリア迷子』を脱出するためのヒントを紹介」— 20代から30代の若手社会人の約半数が「自分の人生やキャリアでどうしていきたいかわからない」と回答 https://logmi.jp/attention/glossary/333332
GIANt

海外25年・複数国の経営現場から、組織の判断を点検する立場で、意思決定と確率思考について書いています。銘柄推奨や投資勧誘は行いません。週に一度、ニュースレターを配信中。

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