判断の技術

うまくいかない時期に、決め方まで崩さない

うまくいかない時期に入ると、正しく決めていたはずの自分の判断まで疑いたくなる——そんな経験はないだろうか。

GIANt
公開
2026.08.10
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5分
分類
判断の技術
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うまくいかない時期に入ると、正しく決めていたはずの自分の判断まで疑いたくなる——そんな経験はないだろうか。

何をやっても、しばらくは結果が出ないみたいな時期がある。数字が動かない。手応えがない。まわりは進んでいるように見える。そういうとき、多くの人は「やり方が間違っていたのかもしれない」と考え、急いで別の手に切り替える。焦りは、いつも「変えろ」とささやいてくる。

でも、と一度立ち止まりたい。うまくいかない時期にいちばん危ういのは、結果が出ないことそのものではない。それを「決め方の失敗」と取り違えて、続けるべきだった判断のやり方まで手放してしまうことだ。

悪いのは結果か、決め方か

賭けの思考には、切り分けておきたい二つの言葉がある。それは、ダウンスイングとティルト、だ。

ダウンスイングは、決め方が正しくても結果がしばらく振るわない時期を指す。運の波と言い換えてもいい。良い選択を続けていても、短い区間では負けが込むことがある。これは決め方の欠陥ではなく、確率がそういう並びを引いただけのことだ。

ティルトは、その悪い並びに感情が反応して、判断のやり方そのものが乱れる状態を指す。取り返そうと張りを大きくする。焦って手をころころ変える。結果の悪さを、決め方の悪さと勘違いして上書きしてしまう。

ちなみに、ダウンスイングそのものより、それに続くティルトのほうが、はるかに深い傷を残すことが多い。

過去に「運の方程式」という記事で書いたことがある。運は謎の力ではなく、抽選回数に近い、と。参加する回数が多い人ほど当たりに出会いやすい。裏を返せば、悪い時期に焦って抽選をやめてしまう人は、当たりの手前で降りている。結果の波と決め方の質は、はじめから別の話だ。

悪い時期に決め方を守るための三つの問い

とはいえ、「耐えろ」と言うだけでは精神論になる。悪い時期を、感情ではなく判断で通り抜けるために、三つの問いを考えてみたい。

一つ目。いま悪いのは、結果か、それとも決め方か。 一度でも、決めたときの前提に戻って確かめる。あの判断は、期待値で見て妥当だったか。前提が崩れていないなら、悪いのは結果の並びであって、決め方ではない。ここを取り違えないことが、まずは最初の一手になる。

二つ目。いま変えようとしているのは、手続きか、それとも結果への反応か。 検証して手続きを直すのは正しい。でも「負けたから変える」は、検証ではなく反応だ。同じ「変える」でも、この二つはまるで別物だ。反応で舵を切ると、次に結果が出ないときにまた切りたくなる。

三つ目。その一手は、抽選回数を減らしていないか。 焦りの多くは、続ければ回ってきたはずの試行を、自分から手前で止めてしまう。降りるべき賭けなら降りていい。けれど、ただ苦しいから降りるのは、当たりの回数を自分で削ってしまう行為になる。

この三つは、悪い時期にこそ言い切っておきたい。迷いは開けておいていいが、判断の物差しまで揺らすと、通り抜けられなくなる。

「スランプならやり方を変えろ」への向き合い方

世間の助言はしばしば逆を言う。スランプのときは、これまでのやり方を変えてみる、違う方法を試す——精神科医のアドバイスにも、そう説くものがある。これは間違いではない。停滞が「前提の賞味期限切れ」から来ているなら、やり方を見直すのは正しいだろう。

分かれ目は、変えるものが何か、にある。前提が古びたなら、前提を更新する。手続きに穴があったなら、手続きを直す。それは検証だ。けれど、結果が痛いという理由だけで、決め方まで入れ替えるのは、検証の顔をしたティルトになりうる。

だから「変えるな」でも「変えろ」でもなく、こう考えてみて欲しい。検証して直すのは手続き。守るのは期待値で選ぶという決め方の基準。 悪い時期ほど、この二つを混ぜないようにしたい。

明日からの一歩——抽選回数を減らさない

まず、いま自分がダウンスイングにいるのか、ティルトに入りかけているのか、一行で書き出してみてほしい。「前提は崩れていないはず、悪いのは結果の並びだ」と書けるなら、決め方は変えなくていい。もし、それすら確信をもって書けないなら、変えるべきは前提で、それは焦りからくるものではない。

そのうえで、施行(抽選)をやめない。回数を淡々と重ねられる形に、賭け金と気持ちを整えておく。壊れない範囲で続けられれば、悪い並びはいつか終わる。負けが込んだ区間に、決め方ごと捨ててしまわない——それが、勝ち続けるということの正体に近い。

うまくいかない時期は、決め方を試される時期ではなく、決め方を守れるかが、強く試される時期なのだと思う。


参考:

  • 精神科医Tomy「急に何もかもうまくいかなくなった…スランプやプラトーを乗り越える人が密かにやっていること」ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/320525

この記事で触れた本

賭けの考え方
賭けの考え方 イアン・テイラー/マシュー・ヒルガー

勝ち負けの波を、感情でなく確率と資金で受け止める考え方。

GIANt

海外25年・複数国の経営現場から、組織の判断を点検する立場で、意思決定と確率思考について書いています。銘柄推奨や投資勧誘は行いません。週に一度、ニュースレターを配信中。

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